点と点

読書録&にっき

『手紙屋』

 今回は神野さんが紹介してくださった『手紙屋』(喜多川泰)を読みました。

「手紙屋」

「手紙屋」

 


前回の『下町ロケット』もそうですが、新書・法律書・自己啓発を普段読んでいるので小説のような平易な語り口ですいすい読み進める本に対してある種、感動のようなものを覚えます。
下町ロケット』と同じ、と書いたものの『手紙屋』は自己啓発本と言っていいと思います。平易な語り口で自己啓発本に何かしらの壁を作っている人、感じている人には最適ではないかと思います。
就職活動に出遅れた主人公が、書斎を提供するお店で出会った手紙屋の広告に出会います。最初の一つめは無料(それ以降は有料)なので試しに手紙を出してみるところから始まります。(あくまで手紙屋がビジネスであるという前提のため)10通までという制約のもとで、主人公の考え方がどんどん変化していきます。
本全体の七割は手紙の内容です。内容以前に、手紙屋の手紙のフォント、主人公の手紙のフォント、手紙のやり取り以外を書いたフォントがそれぞれ違っているところ、それに加えフォントのチョイスがなにより素晴らしい。手紙屋のフォントは、落ち着き、ゆっくりとしたイメージを抱かせます。主人公のフォントは、若々しくいきいき、何か幼さも感じさせるフォントでした。なにか専門家でもないので僕の主観ですが。フォントを変えている本が珍しいとは思いませんが、文字の書き方がよりストーリーの中に入るための一助となりました。
内容について一つ感動したことがあります。出会った人のすべてを味方にする方法です。それは、「相手に称号を与えること」。たとえば、「あなたは絶対に約束を守る人」。そういわれると人はその「称号」に見合ったような行動をするようになると書いてありました。一瞬、人操術か?と思いもしました。「あなたの能力は、今日のあなたの行動によって、開花されるのを待っています」「人生は思いどおりにいく」という言葉からもわかるように、人にはすべてのセンスが備わっていてそれをどのように引き出すかということに重点を置いた考え方のようです。世の中ではセンスがある人が活躍していると何となく感じていたのですが、称号を与えられると頑張ってそれを実現してしまうという人間の行動を理解できてしまった以上、センスは誰にでも備わっていると考え方を改めざるを得ませんでした。まあ、ある意味人操術なのかも知れませんが。心構えについては、「主観」が重要であると主張していると読み取りました。これはアドラーの主張にも通じるものです。「人はみな主観的世界の住民である」『嫌われる勇気』(岸見一郎)の一節に出てくる言葉を所々思い返す場面がありました。手紙屋のいう「ピンチはチャンス、チャンスはピンチ」擦られた表現ですが、やっとこの表現が人間の捉え方によってその出来事がどのような意味を持つのか変わる、ということを伝えようとしていると理解できました。また、企業の選び方(決して方法論的なものではなく)や、具体的目標を建てる意義などに関しても言及されています。
よく、自己啓発本に書いてあることはどれもほとんど同じ、なんてことを聞きます。ある意味真理でしょう。(すなわちそれは、成功した人々にはある法則が働いていることを意味するとも言えると思います。)ただ、同じことだとしてもそれを違う人の、違う表現で読むことには意味があるのだと思います。殊更に、『手紙屋』のように分かりやすく親しみやすいストーリー展開は、主人公に自己投影することによって書いてある内容をより実現しやすくなるのでは、と思います。
三時間程で読めてしまう、本です。迷った時、背中を押してほしいとき、とても参考になる本だと思います。神野さんありがとうございました。